光触媒反応の原理を解説します

「光によって励起状態になり、そのエネルギーを他に与えることができる物質は光触媒になり得る。典型的な光触媒は半導体であり、TiO2のような金属酸化物半導体が多く用いられている。半導体はそのバンドギャップエネルギー以上の光を吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯には正孔ができる。これらの電子と正孔が反応を起こす。半導体上の光触媒反応のような固体上の光触媒反応は光触媒と反応物質との相(phase)が異なるので、熱触媒反応の例にならい、不均一系光触媒反応と呼ばれる。」(この文は北海道大学大学院地球環境科学研究科物質科学専攻 佐藤真理教授の「表面分子動態特論Ⅱ」よりの抜粋です。)

この説明をもとに光触媒が起こす反応について、以下のように解説します。

バンド理論

反応原理について説明する前に、その理論的根拠である分子や固体の中に含まれる電子の挙動について説明いたします。

電子は連続的にエネルギーをとることは出来ず、存在できるエネルギーの準位が存在します。
例えば分子においては、光によって電子が上の準位へと励起されます。
また、固体(半導体)においては、電子のエネルギー準位はバンドすなわち帯を作ります。

バンドには、電子が多すぎて身動きがとれない価電子帯、電子が動きやすくて電気伝導に寄与できる伝導帯、この両者の間に横たわるそもそも電子が存在できない禁制帯(ここをバンドギャップと称します)の3種類の領域が存在します。

電子は基本的にエネルギーが低い準位をとりたがるため、価電子帯には大量の電子が存在します。ただし、あまりにも電子が多すぎて価電子帯中の電子は身動きがとれないため、これらの電子は電気伝導に寄与しにくいのです。

一方でエネルギーが高い伝導帯は、価電子帯と比べて電子が少なくスカスカなため、電子は身動きが取れやすく、このため、伝導帯中の電子は電気伝導に影響することができます。

価電子帯・伝導体この両者の間に横たわる禁制帯はエネルギー準位を全く含まないため、電子が存在できない場所となっているます。そのため、不純物が無い結晶では、電子は必然的に価電子帯と伝導帯のどちらかに属するエネルギー準位をとることになる訳です。

電子が価電子帯と伝導帯を行き来するには、禁制帯を超えられるだけのエネルギーを吸収または放出しなければなりません。

このような理論から伝導体・絶縁体そして半導体が理解できます。

電子とはフェルミ粒子なので、特定のエネルギー準位に電子が存在する確率は、フェルミ分布関数に従い、電子のようなフェルミ粒子が存在する確率は、エネルギーが低い位置のほうが大きくなります。さらに、この分布の最大値は1、最低値は0であるため、電子の存在する確率が途中で1/2となるエネルギーが必ず存在します。このように、確率分布が1/2になるようなエネルギー準位のことを、フェルミ準位とよび伝導帯と価電子帯の中央に位置することになります。

電子とはフェルミ粒子なので、特定のエネルギー準位に電子が存在する確率は、フェルミ分布関数に従い、電子のようなフェルミ粒子が存在する確率は、エネルギーが低い位置のほうが大きくなります。さらに、この分布の最大値は1、最低値は0であるため、電子の存在する確率が途中で1/2となるエネルギーが必ず存在します。このように、確率分布が1/2になるようなエネルギー準位のことを、フェルミ準位とよび伝導帯と価電子帯の中央に位置することになります。

伝導体(金属)

金属では価電子帯と伝導帯がつながっているので、常温下では、左の図のように価電子帯には大量のホールが、伝導帯には大量の電子が存在するようになります。つまり、金属には大量のキャリアが含まれているため、金属は電流をよく通すことができるのです。

絶縁体

絶縁体とは、フェルミ準位が禁制帯中に存在して、かつ価電子帯と伝導帯の両方から十分離れているような物質のことです。

半導体

半導体とは、フェルミ準位は禁制帯中に存在していますが、バンドギャップが絶縁体ほど大きくないような物質のことです。半導体は、金属と比べると電流を通しませんが、絶縁体ほど電流を遮断できない中途半端な物質です。

光触媒反応

「光触媒とは」で説明したように二酸化チタンに紫外線が照射されると電子と正孔ができます。これは何もエネルギが与えられない状態では価電子帯に滞留している電子が、紫外線エネルギーを受け取ることで励起され、エネルギをもった電子となって伝導帯に移動する現象が起き、「電子が分離する」ということはこのように説明できます。


電子はマイナスに荷電しているため、電子が抜けた孔はプラスに荷電されるため、孔は正孔と呼ばれ、電子が抜け出た孔を埋めるかのように二酸化チタン表面に吸着している水分からOH基のもつ電子を引き抜いてしまいます。電子が引き抜かれたOH基は、不安定にとなるため、さらに自身の外で接触してくる空気中の臭い成分や、水中に溶けた化合物など、鎖状有機化合物から電子を奪い活性化されたOH基となり、このOH基そのものが安定になろうとします。このOH基を水酸ラジカルと呼び、塩素やオゾンよりも高い酸化力を持つものとして理解されています。

ではどうして紫外線なのでしょうか?
これはアインシュタインの光の公式で説明できます。

光は波としての性質と粒子としての性質を同時に併せ持っています。

粒子としての性質は波の概念で表すことができないため光子の持つエネルギーで表します。

有名なE=mc2 がこの式です。

波としての性質はE=hνで表されます。


半導体である光触媒は価電子帯にあった電子が伝導帯に移動するのに移動に足るエネルギを与えられなくてはなりません。

すなわち禁制帯を超えるエネルギが必要で、この電子の移動に要するエネルギーはバンドギャップエネルギーと呼ばれることは前述しました。半導体にはその物質特有のバンドギャップがあり、二酸化チタンの場合は 3.2eV (electron-volt) です。

この移動に必要なエネルギ=バンドギャップエネルギは波動式から光の振動数とプランク定数で表現することができます。

ここで振動数は光速を光波長で除算したものですから、エネルギを波長で表現できます。

E= hv  v=c/λ ですから E=hc/λ

移項すると λ=hc/E

ここでEは二酸化チタン 3.2eV ( 3.2eV = 3.2×1.6×10-19J ) であり、既知数 である光速 c :3.0×108m/s、プランク定数 h : 6.63×10-34J・s)を代入して解くと

λ=388nm

このエネルギを与えられるのは388nmの波長、すなわち下図にある可視光領域から少し左にふれた紫外線領域を始まりとして、全紫外線領域がバンドギャップエネルギを満足するということが判ります。


かくして紫外線応答光触媒の励起メカニズムを説明できたので、紫外線応答光触媒・可視光応答光触媒のメカニズムについて次のページで解説します。